骨董の醍醐味とは
この業界で成功するには、何が一番重要なのでしょう。素直で筋の良いものを扱えるかどうかではないでしょうか。言い換えれば本物を扱えるかどうかだと思います。骨董の宿命として、真贋の問題は常に付きまとってきますが、ものは嘘をつきません。嘘をつくのは常に人間のほうです。お客様に現代の有田焼(特に古伊万里デザインのもの)の新物を江戸期の伊万里焼(古伊万里)として売ってしまったり、作家ものの茶碗の贋作を本物として売ってしまったり、この種の話は、巷に少なくはありません。お客さまに新物を新物として断り売っている場合には、お客様も納得ずくですから問題はありませんが、そうではない場合、お客様が実害を被るので非常に問題です。売っている本人が無知ゆえ、新物、贋物を扱っている場合もあるでしょうが、そうでない場合、一種の詐欺と言えます。
本物を扱うには目利きである必要があります。目利きになるためには、出来る限り本物に接し美に対する感性を養う必要があります。感性が養えるかどうかは別にしても、骨董業界では、美に対する感性は必須です。しかしこの感性というものは厄介なもので、必ずしも美に投資した金額、時間に比例し向上するとは限らないもののようです。それが証拠に美にどれだけ投資しても、贋物を攫む方は依然贋物を攫むようです。逆の場合もあり、生まれついて感性が備わっているとしか思えないような方もいるようです。目利きと言われる方は、優れた感性をお持ちのはずです。知識も重要でしょうが、最後の決め手は感性です。
例えば初期伊万里の徳利は砂高台と言う約束事(その骨董品特有の特徴)がありますが、他の古陶磁にも同様の約束事があります。難しいのは、それらの約束事をすべて満たしているからといって本物とは限りません。そこから先、本物か贋物かを判断するのは、感性なのです。骨董業界でよく言われる「どうも腹におさまらない」という言葉は、その骨董品がその方の感性に照らし合わせてみて腑に落ちないという事です。もちろん知識も大切ですが、この業界は、それだけでは火傷を負う可能性大なのです。人伝えに聞いた話ですが、質、量ともに正確な知識を備えた学者の方が、その知識を基に大学を退官後、退職金で骨董品を買ったそうです。さぞや素晴らしいものを手に入れたと思いきや、殆どが贋作だったそうです。また贋物製作者は、贋物を本物らしく見せるため、しっかりと約束事を満たしたものを作るのです。
この業界の楽しみといえば、業者もお客さんも掘り出し物を見つける事でしょう。業者のオークションに出品された商品の場合、プロの目を通しますからそれなりの値段が付きますが、一般家庭からの買い取りの場合、業者も売った方も分からず、あとで調べてみたら、凄いものであったということもあります。では、どのような状況で掘り出し物が出やすいのでしょうか? 骨董店にはそれぞれ専門分野、得意分野があります。古陶磁が得意分野の店、古布が得意な店、古民具が得意な店、この得意分野は、店主の骨董の好みと一致するようです。好きな骨董の 分野は、自ずと造詣が深くなります。店主には好みがあり、骨董は分野が広いですからすべての分野が得意という店主はいません。蔵出しの場合、すべてを買い取る事が基本です。そうしないと売ってくれなかったり、また商売としても旨みがありません。古陶磁が得意な業者の場合、古陶磁がターゲットですから、古陶磁を買い取るついでに、古布とか古民具等の他のものも仕入れるわけです。それらのものを業者のせり(オークション)に出す場合もありますが、店の片隅で商う場合もあります。ここが狙い目なのです。古陶磁がメインですから、古陶磁の値付けは、シビアな相場となるでしょうが、他のものは得意分野ではなく、利益は古陶磁の売り上げであげますから、場合によっては、こんな良いものがこんな安い値段で店頭に並ぶという事があります。勿論一般的な知識はあるでしょうが、店主が得意分野でないため、こういった状況が起こります。真に「知らない」ということは、恐ろしいことなのです。巷に掘り出し物を探す状況は揃っています。あとはあなたの知識と、最後にそして何よりも重要な感性です。
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